トルデシリャスの東【第18回】故郷


トルデシリャスの東

故郷

ロレンソ了斎は、平戸の生まれである。琵琶法師として流転の旅に出るまで、了斎は平戸で育った。生月島にほど近い、白石という地である。了斎の故郷への思いは複雑だ。荒くれ者の漁師と、海賊まがいを相手に商売をする武張った商人。それらを束ねる古代水軍の末裔、松浦家。そんな平戸という街に盲目で生を受けた了斎は、この土地でひとり、孤独を抱えて育った。その類まれなる記憶力と話術は、琵琶法師としての彼の地位を、決して低いものには留め置かなかった。しかし、武士や豪商、あるいは市政の民に一時の慰みを与えるその生業が、彼に心からの充足と喜びを与えることはなかった。やがて了斎は、自らの魂が求めるものがなにかも分からぬままに、逃げるように平戸を飛び出し、流浪の琵琶法師となった。

そんな了斎に、生きる意味と救いを与えてくれたのがキリスト教である。そして、それを了斎に伝道したフランシスコ・ザビエルは、了斎にとって聖人そのものだったといって良い。自分は平戸で生まれたのではない。肉体の眼は開かずとも、ザビエルによりキリスト者として心の眼を開かれた。ザビエルから洗礼を受けたその時、初めて自分はこの世に真の生命を授かったのだ。ロレンソ了斎は、固くそう信じている。

「今、余裕はないのだが・・・。ミゲルや。どなたからの便りか」。

平戸からの手紙というその言葉が、普段は心の奥底にしまい込んで隠している傷にカチリと当たり、既に了斎を滅入らせている。そして、便りの主を知って、その傷はあっけないほどに、ぱっくりと口を開ける。

「籠手田安恒・アントニオ様と書かれてございます」。

その名を聞いた了斎は、一つ深くため息をつく。

「籠手田殿か。恐らくまたポルトガルと松浦殿の間を仲介し、貿易を再開するよう働きかけてほしいという話だろう。今はそれどころではない。あとで読もう。そこに置いておきなさい」。

手紙の主、籠手田安恒・アントニオは、平戸松浦家の家老格である。武の誉高く、隆信より生月島一帯の統治を任されている重要家臣だ。ラケルが鉄砲傷を治癒した田川清兵衛と同様、隆信がキリシタンを奨励していた時代に洗礼を受けた。

しかし、籠手田が田川と異なるのは、隆信がキリシタン政策を転換してからもなお、熱心にキリスト教を信仰した点である。隆信は当然、これを快く思うはずがなかった。しかし、隆信はそれを黙認した。籠手田のような重要家臣のキリスト教信仰を黙認することで、南蛮貿易復活のわずかな可能性を繋ごうとしていたのかも知れない。籠手田もまた、主君隆信との間に広がる隙間を少しでも埋めたいのだろう。南蛮貿易再開の可能性を常に伺っていた。今回もまた、そんな内容だろう。そう決めつけて籠手田からの手紙をあらためる気配のない了斎の様子を見て、オルサンティが静かに話しかける。

「了斎殿。この状況、心落ち着かぬことは良く分かる。私も同じだ。しかし、ドン・アントニオ殿は、キリシタンへの圧力深まる平戸の地で尚、信仰を貫かれている敬虔なるキリスト者と聞く。京までまたわざわざ便りを寄こされたのだ。なにか助けが必要なのかも知れない。どのような状況でも、仲間を見捨てることはできない。せめて手紙を検められてはどうか」。

オルサンティの静かな言葉に、ロレンソは自らの心の傷を見透かされたかのように恥じ入る。

「オルサンティ師。私は恥ずかしい。あなたの言う通りです。私はこの混乱を言い訳に、同じ神に仕える子らを見捨てるような過ちを犯すところでした。この文、すぐ確認しましょう」。

そういうと了斎は、手紙をミゲルに託し、音読するよう促した。ミゲルは、この盲目のキリシタンのために何度も引き受けたその役回りを、この時もまた淡々と、かつ丁寧に果たす。聖歌を歌うその美しい声で。オルサンティにも分かるようにゆっくりと。

奉啓、洛中にて御宣教の任に御励精の由、欣悦至極に存じ候。

然るに此度、平戸にありて稀有の女医者あり。名をラケルと称し、異国の南蛮より渡り来り、当地にて診療を施し候。この女医者、平戸藩主、松浦隆信公の庇護を受け、貴賤を問わず多くの病者を治癒せしめ、平戸の庶人共、救命の恩を蒙り、此の女医の評判、日を逐うて高まり候。実に此の者の医術を拝見せし時、余が胸中には神の御業に通ずるものを感ぜざるを得ず候。

目下、平戸と御イエズス会との間、聊か疎遠の気色なれども、籠手田一門はじめ生月島の信徒等、信仰の炎、絶えず護りて御座候。松浦殿隆信におかれましては、その寛大なるご処断の元、表立ちては御黙認の体にて、格別なる御沙汰これ無きにより、我らも安堵し信仰を続け申し候。

然れども、一点気掛かりなること有り。この女医者ラケル殿、診療の見事さに比して、ミサへの参詣これ希にして、また休息の取り様もイエズス会の教えとは少しく異なり候。若しや我らが知らざるキリシタンの掟でもあるや否や、これ甚だ気になり候。奇跡の如きその医術を目の当たりにすれば、これぞ真実なるキリスト者と存じ候へばこそ、その真なる教えの全貌を、余も正しく知りて守りたく存じ候。

いつの日にか、洛中より貴殿了斎殿が平戸の地に御下向なされる折には、是非とも此の女医者ラケル殿をお見知り頂きたく、心より願い奉り候。

恐惶謹言

天正七年水無月吉日 籠手田アントニオ

ロレンソ了斎御侍史

手紙の内容を知った了斎は、恐るべき偶然の符丁に思わず大声をあげたくなる。しかし、それを理性で何とか抑え込み、努めて平静を装う。そしてまず、最優先でやるべきことをする。ミゲルへの口止めである。

「ありがとう。ミゲル。その手紙をオルサンティ師にお渡しして、歌の練習に戻りなさい。いつもの通り、この内容は決して口外してはいけないよ」。

ミゲルは言われた通りに手紙をオルサンティに手渡すと、聖歌の練習に戻っていった。

オルサンティの日本語は、手紙の内容を一度聞いてすべて理解できるほどではない。しかし、女医者が平戸にいる、という事実は判ったようだ。オルサンティは、ミゲルがドアを閉めた事を確認すると、感極まって涙を流し、顔を真っ赤に染めながら了斎の肩に手を置く。

「了斎殿。これこそ神の恩寵でしょう!もう日本にいないと思っていた南蛮医が日本にいるとわかったのだ。しかも相当な腕前のようだ。そうと決まったら急がなくては。目的地は変更だ。私は豊後ではなく平戸に向かおう!了斎殿。籠手田殿宛に紹介状をしたためて頂きたい。それともいっそのこと、了斎殿も平戸に行かれますか?」。

驚きの知らせに興奮し、色めき立つオルサンティの言葉に、了斎は顔を曇らせる。平戸に行く。それは、福音を授かり、魂の帆を順風で膨らませて意気揚々と伝道の航海を進む了斎にとって、逆風に帆を畳み、目的地から遠ざかるのをじっと耐えるようなもどかしさの中で、過去と向きあうことだ。

「これは僥倖でございます。しかし、盲目の私がこの緊急を要する旅に出るのは、やはり足手まといになりましょう。私は京に残ります。むしろ、豊後のフロイス師も平戸へ向かっていただくよう便りを出してはいかがか。この手紙は代筆させることはできない。オルサンティ師にしたためて頂かなくては」。

ロレンソの言葉にオルサンティは深く頷く。すぐに手紙をしたためるべく机上をあさり、紙とインクを探す。そしてその時、机上に放置されていたフロイスからの手紙が、オルサンティの目に留まる。

「ええい!こんなもの。今はどうでもよい」。

オルサンティは、その手紙を掴んで机の引き出しに放り込むと、紙とインクを広げ、手紙をしたためる準備を始める。

「こんなものとは?」。

その投げやりな言葉に、了斎が反応する。

「二日ほど前に長崎から届いた手紙だよ。フロイスからだ。マカオから来た新任イエズス会員からの言付けだと添え書きにある。どうせ、日本人の改宗が計画より遅いだの、伝道に金を使いすぎだのといった小言に決まっている。あいつらはマカオから結果だけ見てものを言ってくる。この国のことも、日本人のことも何もわかっとらんのだ。こんなものは今、どうでも良い!」。

オルサンティの乱暴な言葉を聞いた了斎は、穏やかな言葉でオルサンティを諭す。

「オルサンティ殿。あなたらしくない。私はたった今、あなたの言葉に救われ、平戸からの便りを開いた。その中には神の恩寵としか思われぬことが書かれていた。今度は私が申しましょう。フロイス師は今、九州で伝道に励まれておる。その文の内容があなたのおっしゃるような内容であれば、フロイス師もまたマカオと日本の間で板挟みとなり、苦しまれていることでしょう。そのような仲間の苦しみ、我々も共にしてこそ、前に進めるのではございませんか。それに、明日あなたが発ってしまえば、この手紙は誰にも開かぬまま、何日も留め置かれます。さりとて、ずっと開かぬわけにもいきますまい」。

オルサンティは、了斎の言葉にひとつ大きなため息を吐き、インクを浸そうとしていたペンを投げ出す。そして、苦笑いを浮かべながら返す。

「確かに。しかし、改宗ノルマが未達だの、経費を使い過ぎだといった説教が書かれておると分かっている手紙を開くことは、気が進まぬものですな。了斎殿も、それは分かっていただけるだろう。怠慢はお詫びする。今、ここで読みましょう」。

そういうと、オルサンティは封を切り、フロイスからの手紙に目を走らせる。読み進むにつれ、その手は震えだし、目は血走る。オルサンティは、激しい動悸に襲われる。そして、全て読み終わると、今度は脱力し、絶望の表情で虚空を見つめる。先ほどまでの歓喜と興奮の渦は、もう見る影もない。

「なんてことだ!どうして神はこのようないたずらをされるのか!我々の苦しみがまだ足りないと申しておられるのか!」。

オルサンティの慟哭に、階下で鳴り響いていた聖歌の声が途絶える。そして階段を上る音の後、ミゲルがおびえたような声で部屋のドアを叩く。

「了斎様。なにか、御座いましたでしょうか。ミゲルにできますことありましたら、なんなりとお申しつけください」。

「大丈夫だよミゲル。驚かせてすまなかったね。我々の事は心配いらない。しっかり歌の練習をしておくれ」。

了斎はそういってミゲルを帰すと、手を彷徨わせてオルサンティの肩を探り、そこに手を乗せて無言で佇む。そして、オルサンティが落ち着くまでなにも声を発しない。なにが書かれているか分からないが、言葉で彼を鎮めることが困難なことを、了斎の耳が正確に捉えている。階下から再び聖歌が聞こえてくる。長い沈黙の後、オルサンティがようやく口を開く。

「了斎殿。これには、平戸の南蛮医者に関しての追加情報が書かれている。この女はキリシタンではない。ユダヤ人だ。見つけたらすぐに捕縛し、マカオの聖務裁判所に引き渡せと書いてある」。

「ユダヤ人、でございますか。私も、生前のザビエル様から少しお聞きしたことがございます。聖典にもあるイスラエルの民ですね。ザビエル様は、福音から目を背ける気の毒な人々と申しておりました。私はその後、ザビエル様から、その民について十分な知識を授けて頂く機会がございませんでした。しかし、彼らは偽りの教えに惑い、闇を彷徨っているのでしょう?ならば、我々が教え諭し、福音へと導けば良いではないですか。今まさに我々は、邪教に惑わされ、闇を彷徨う気の毒な日本人に、洗礼を与えて救うべく、粉骨砕身の努力をしておるではないですか。なぜ裁判所などというおどろおどろしいところに送還しなくてはならないのでしょうか」。

その言葉を、オルサンティは皮肉交じりの冷徹な嘲笑で返す。

「了斎殿は日本人ですからな。彼らのことがよくお分かりにならないことは無理もない。我々キリシタンは、主イエズス・キリストが神の現れとしてこの世に生まれ落ちてから千数百年、ユダヤ人達に教え諭してきたのだ。律法を捨て、福音に帰依せよと。しかし、表向きわかったふりをして洗礼まで受けておきながら、ひそかにユダヤの律法を護り続ける者があとを絶たぬ。それだけではない。イエズスは人であって神ではないなどと密かに触れ回る者どもが、ようやく福音に目覚めたキリストの子まで、再び悪魔の教えに引きずり戻す始末。あの者どもに対するキリシタンの寛容は、もう終わっておるのだ!  神は、百年近くも前にスペイン王に命じ、ユダヤ人を聖なるキリストの世界から追放させた。やがて、ポルトガル王もそれに倣った。慌てふためいたユダヤ人は、世界に広がるポルトガルの領地に逃げ散らばり、いまだ秘かにその信仰を続けているのです。その片割れの一人が平戸に逃げ込んだ。偶然か必然かは知らないが、あそこは今、イエズス会とも、ポルトガル商人とも関係が冷え切っている。松浦公は、我らがイエズスの光を授けた偉大なる友、大村・バルトロメオに海戦を仕掛け、愚かにもポルトガル船の積み荷を強奪しようとさえした。あの松浦公が治める平戸に隠れておらば、これまで見つからなかったのも無理はない。運の強い女だ」。

オルサンティはそこまで一気に語ると、干からびた喉に荒々しく水を流し込む。

「イエズス様が神の現れではないなどとは、なんと畏れ多いことでしょう。オルサンティ師のお怒りのお気持ち、了斎もよく分かります。しかし、困りましたな。今我々は南蛮医を必要としております。その女医者はどうなるのでしょうか」。

「平戸で捉えて長崎に送還だ。そこで聖務裁判所に引き渡せば、あとは向こうの仕事だ。恐らくマカオからさらにゴアの異端審問所に送られ、異端裁判にかけられる。それでも改宗せねば火あぶりだ。死ぬ前に悔い改めて改宗すれば、運が良ければ生きられる。悪くても縛り首だ。あとは、デウス様による最後の審判に、お任せすることになる」。

「なんと残酷な!火刑台の前に引き摺り出し・・・・。脅して無理やり改宗させるのですか!教え諭して、その気の毒な女医者の眼と心を自ら開かせてやることが、デウスに仕えるものへの使命なのではないでしょうか!」。

オルサンティは下を向き、拳を固く握る。その拳で目の前の机を叩き割り、大声で叫びたい衝動をぐっとこらえる。長い沈黙の後、オルサンティは声を押し殺していう。

「了斎殿。この話はもうこれで終わりにしよう。我々キリシタンとユダヤ人の長い話を、今ここでぐだぐたとしている場合ではない!」。

そういって、オルサンティは机に向かい、改めて長崎宛の手紙を書き出す。しかし今度は、フロイスに向けた平戸への移動要請ではなく、長崎にいるコスタに向けた、ラケルの所在報告である。その気配を察した了斎は、さらにオルサンティに食い下がる。

「わかり申した。異端の信仰について今議論するのはもうやめましょう。しかし、信長様のことはどうしますか。籠手田氏の手紙通りならば、その女医者は有能です。それだけやれるということは、平戸には南蛮薬もあるということです。恐らく中国商人と協力して、マカオと取引しているのでしょう。アルメイダ師の元に南蛮薬はない。そもそも彼を見つけられるのか。期限までに京に来れるのか、それも分からない。信長殿に万が一の事があれば、日本のイエズス会は即座に危機に瀕しますぞ」。

オルサンティは了斎の言葉に体を硬直させ、手紙を書きかけた手を止めて点を仰ぐ。目は血走り、虚空を彷徨う。完全に錯乱している。

「嗚呼、ではどうすればいいというのですか!この異端の女、ユダヤ人に我々イエズス会とキリシタンの命運を託せと?そもそも平戸の領主はイエズス会と対立しておるのだ。我々が頼んだところで簡単に引き渡すのでしょうか!神はどうしてこう、時に残酷となるのでしょう!」。

了斎もその言葉に顔を曇らせ、逡巡する。確かに隆信公は、なにか目的があって女医者を庇護しているのであろう。それを京に上らせるには、納得させるだけの理由が必要だ。理由だけではない。それを誰が隆信に伝えるかも重要だ。考えろ。了斎は自分に言い聞かせる。今ここでの判断が、全てを決めるのだ。しばしの沈黙の後、了斎は静かに語りだす。

「オルサンティ殿。やはり、私が平戸に参ります。そして、隆信公と謁見し、許可を得てその女医者と共に京に上ります。あなたやフロイス師が平戸に行って、女は異端だからイエズス会が連れていくといったところで、隆信様が首を縦に振るとは考えにくい。言い方を間違えればその場で斬って捨てられるでしょう。私は、明智光秀殿が危篤であり、信長公の命を受けて、南蛮医を探していると隆信様に伝えます。信長殿のご威光は今、五機内の外まで鳴り響きつつあります。隆信公も京の動向には神経を尖らせているはず。信長公に弓を引いた武将が次々と討ち果たされてることも、ご存じでしょう。その信長公のご命令とあれば、隆信様はきっと、女医者を京に上らせるはずです。もし、その女医者が信長公を救えなければ、間違いなく女は打ち首となるのみでしょう。女医者が信長公を救ったときは・・・・・。その先のことは今は天に任せるしかありません。しかし、少なくともその時、イエズス会は安泰のはずです」。

オルサンティは、自分を無理やり納得させるように、何度か不自然なほど大きく頷いた後、小さく首を振る。

「今は、それしかないのか。何という事だ・・・。して、アルメイダ師はどうする?万が一、隆信公が女医者を手放さない時のため、やはりアルメイダ師も追っておくべか?」。

「そう思います。あなたは豊後でフロイス師と落ち合い、アルメイダ師を探してください。しかし、七日探してもし見つからなければ、フロイス師と共に京に戻っていただきたい。私はきっと隆信公を説得し、女医者を連れて京に戻って見せる。アルメイダ師と女医者。両方とも駄目であったときは、ありのままを光秀殿に報告し、あとは天命を待ちましょう」。

「うむ。マカオの聖務裁判所はどうする?少なくとも信長公の行く末明らかになるまでは、女医者の事を教える訳にはいかんだろう。さりとて匿ったと思われたら、後で我々もどうされるかわからん」。

「今、そのマカオからの使いには一切の事を知られてはなりませぬ。その男はイエズス会士を名乗っているようですが、同士とは考えない方が良い。その者からいらぬ詮議を受けぬためにも、オルサンティ師は長崎に近づいてはなりませぬ。瀬戸内海を抜け、下関から上陸して豊後に向かわれるべきだ。女医者の扱いは、信長公のお命助かった時、信長公ご自身のご判断を仰ぐしかないでしょう。天下の信長公の判断には、聖務裁判所も逆らえますまい」。

オルサンティは、了斎の言葉を聞き終わると、少しだけ硬直がほどけた表情を見せる。そして、了斎の手を取り、抑えきれない感情を押し殺すようにして低い声でいう。その声は震え、目には少しの光るものもある。その涙を了斎は心で感じ取る。

「ここから二十日。これが我々のすべての命運を決めますな。信長様のお命がその間、天に召されぬようデウスに祈りましょう。デウスはきっと我々を見捨てないでしょう。そのご加護を信じ、天命を尽くしましょうぞ」。

了斎も、無言でオルサンティの手を固く握り返す。下の階から、ミゲルらが歌う声が聞こえてくる。グレゴリオ聖歌である。

めでたし、あはれみ深き御母、天の后マリア。 われらが命、よろこび、望みなる御方、こころより祈り給う。

われらはエヴァの末裔、この世に流されし子ら、 涙の谷にて嘆き、泣きて、ひたすら御身を仰ぎ慕ひて、ため息をつくなり。

されば、われらを護り給ふ御母よ、 慈悲深き御眼をわれらに向け給へ。

そして、この世の流浪の旅終りし時、 御胎内に宿り給ひし祝福されし御子イエズスを、 われらに示し給へ。

嗚呼、慈悲深き、嗚呼、恵み豊かなる、 嗚呼、甘美なる処女、マリア。


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GMDコーポレートファイナンス(現KPMGFAS)にてM&Aアドバイザリー業務に従事。バイサイド、セルサイド双方の案件エグセキューションを経験。 その後、JAFCO 事業投資本部にてバイアウト(企業買収)投資業務に従事。 また、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)にて、通信/ITサービス企業の事業ポートフォリオ戦略立案等、情報通信/ITサービス領域におけるコーポレートファイナンス領域のプロジェクトをリード。
2013年 IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社設立。代表取締役就任。

日本証券アナリスト協会検定会員
日本ファイナンス学会会員

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