
ガンジャンピングとは、もともと陸上競技において「鉄砲飛び越えてしまう」つまり「フライング」を意味する英語です。しかし、ビジネスの世界ではむしろ、クロスボーダーM&Aにおける競争法違反のことを指すケースがあります。これもまた、ちょっとシュールなM&A用語です。では、具体的にはこのガンジャンピングとはどのような違反行為を指すのでしょうか。
M&Aにおけるガンジャンピング規制とは?
ガンジャンピングは、特にクロスボーダー企業の合併や買収(M&A)において重要な規制です。特に、独占禁止法に基づく規制が存在する国々では、この規制を理解し遵守することが非常に重要です。本記事では、M&Aにおけるガンジャンピングの基本的な概念と、その規制の背景、そして違反した場合の影響について解説します。※但し、弊社は弁護士事務所ではなく、本コラムの内容の法的な正確性を保証するものではありません。実務においては、クロスボーダーM&Aの経験が豊富な国際渉外弁護士事務所への確認と連携が必須となる点、ご注意ください。
ガンジャンピングの定義
M&Aにおけるガンジャンピングとは、規制当局による取引の承認が得られる前に、買収対象企業の経営権や事業運営に対して影響を与える行為を指します。具体的には、買収が正式に完了する前に買収先企業の事業運営に関与したり、経営方針に影響を与える行為が該当します。
なぜガンジャンピングが問題なのか?
ガンジャンピングの規制は、公正な競争環境を維持するために設けられています。買収が完了する前に買収先企業の経営に干渉すると、市場における競争が不当に制限され、消費者や他の企業に対して不利益をもたらす可能性があります。さらに、規制当局の承認を待たずに行動を起こすことは、法的な手続きを無視する行為と見なされ、重大な法的問題を引き起こす可能性があります。
ガンジャンピングの具体例
例えば、ある企業が別の企業を買収することを決定し、その後に規制当局の承認を待たずに買収先企業の経営陣に対して事業計画の変更を指示した場合、これはガンジャンピングに該当します。また、買収先企業の重要な決定に対して事前に同意を求めたり、共同で市場戦略を立てるといった行為も、ガンジャンピングと見なされる可能性があります。
競争法は国ごとに異なる
このガンジャンピング規制の難しいところは、国によって競争法の規定が異なるという点です。つまり、日本の競争法上問題がない行為も、買収企業(買主)あるいは、被買収企業(売主)の所在国の競争法には該当する可能性がある点です。従って、クロスボーダーM&Aでは、国際弁護士事務所と密に連携し、買主、売主双方の所在国において、当該買収が競争法によりどのような影響を受けるか慎重に検証することが必須となります。特に、製造業など生産拠点が世界に点在する場合は、各拠点ごとに競争法上の検証が必要になり、その手続きは複雑で膨大です。
違反した場合の影響
ガンジャンピングに違反した場合、企業は厳しい罰則を受ける可能性があります。具体的には、取引の中止命令、罰金の支払い、さらには取引の無効化といった影響が考えられます。また、企業の信用が損なわれることにもなりかねません。これらの影響は、企業の経営にとって重大なリスクとなるため、ガンジャンピングの規制を遵守することが重要です。特に競合を買収するようなケースでは、フライングして企業秘密を共有してしまった後に、競争法が障害となって案件がブレイクしてしまうと、重要な秘密だけ相手に漏れてしまうリスクもあります。
ガンジャンピングを避けるための対策
ガンジャンピングを避けるためには、企業内部でのコミュニケーションと情報管理が重要です。まず、M&Aの過程では、すべての行動が規制当局のガイドラインに沿って行われているかを確認する必要があります。また、法的助言を求め、買収が正式に完了する前に行われるすべての活動が適切であることを確認することが求められます。
特に気を付けなくていけないのはビジネスサイドのメンバーとPMIコンサル
この、ガンジャンピング規制については、投資銀行(M&Aアドバイザー)や国際弁護士事務所は当然知悉しており、慎重なエグゼキューションが行われます。しかし、時にこのリスクを軽視あるいは認識せずにリスクを冒してしまう可能性があるのが、M&Aプロジェクトにビジネスサイドから関与しているメンバーと、ビジネスDDやPMIを担当するコンサルティング会社です。
ビジネスサイドでは、買収後の統合をいかにスムーズに進めるかが重要であることは言うまでもありません。しかし、人事交流を先走って始めてしまったり、営業秘密(顧客や調達に関する情報など)を先行してどんどん共有してしまうようなことが、思わぬところでガンジャンピング規制に抵触してくるリスクがあります。M&Aも100メートル走も、フライングせずに公正に競争することが重要です。
- By 西澤龍
- 6月 03, 2024
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