中国の自動車販売データをよく見てみたら、既に景気後退に入っているようにも見える。


 中国恒大が米国事業の破産申請手続きに入ったことに加え、不動産専業の碧桂園についても連日経営危機が報じられています。中国経済が少なくとも変調を来たしていることは間違いないでしょう。不動産セクターは、中国のGDPの3割を占める巨大産業です。共産主義国家であるため、土地の所有が認められていないにも関わらず、産業規模がこれだけ大きいのは、中国の人々の不動産(建物)所有に関するこだわりの現れでしょう。

 そして、個人の資産所有において、不動産の次に大きなものは自動車です。従って自動車に関するデータも、中国経済の体温を測る重要な指標です。このコラムでは、中国の自動車販売データから、中国経済、特に消費マインドの動向を探ってみます。中国経済は、今後本格的な景気後退期に入るのでしょうか。

■「本当のこと」が何も分からない。中国統計数値の闇

 中国について定量的な分析をするとき、最初に当たる高い壁が、統計データの信憑性に対する疑いです。弊社はM&A支援を業としていますが、中国の案件に関しては実績がありません。初期的な相談や協議を何度かしたことはありますが、いずれも扱いを見送っています。会社の財務数値に対する信憑性が「全くない」からです。これは恐らく中国当局の経済統計も同様で、そのほとんど全ては、「ファクト(事実)」ではなく「オピニオン(共産党の意図)」を示す数値と考えて間違いないでしょう。従って、中国の消費経済を、自動車統計データから読み解こうとする場合も、どの数値を用いて何を分析するかについては、慎重な扱いが不可欠です。

■外資メーカーが発表する中国市場での販売台数データは、改竄しにくい良質なデータ

 しかし、中国の自動車市場においては、そのデータの信憑性を担保し得るいくつかの切り口があります。それは、中国にとっての外資メーカー(トヨタやGM)が発表する中国市場での販売台数は、中国当局が関与して解釈を加えることが難しいという点です。トヨタやGMは、日本市場や米国市場で株式公開しており、その開示データの信憑性については常に高い信頼性が求められます。もし誤ったデータが市場で流通し、投資家の判断をゆがめた場合、巨額の損害賠償請求の可能性さえあります。

従って弊社は、こうした外資が発表する中国市場での販売台数は、少なくとも中国メーカー(北京汽車や長安汽車、そしてBYD)が発表する販売台数データよりも信憑性が高いと捉えています。逆に言えば、中国メーカーが独自に発表する販売台数数値は、基本的に信憑性は薄いと捉えるのが弊社のスタンスです。このような見方には異論もあるでしょう。中国メーカーの発表数値もすべて含めた中国の自動車販売台数は、過去3年で最高水準を維持し続けています。これを素直に解釈するなら、中国経済は引き続き絶好調ということでしょう。しかし、このような考え方で中国消費経済の体温を理解しようとすると、大きな判断ミスを犯す可能性があります。

■主力外資自動車メーカーの中国販売台数は直近2カ月で急落
冒頭のグラフは、このような視点に基づいて、中国市場において一定以上の販売シェアを持つ有力外資系自動車メーカーの、中国における販売台数推移を示したものです。このデータを見ると、2023年6月、7月にかけ、2021年、2022年と比較した販売台数の減少傾向が見られます。2022年は、中国が断続的なゼロコロナ政策(完全隔離・外出禁止など)を行った年です。この政策は2023年の冒頭まで断続的に発動されました。それにも拘わらず、隔離政策が緩和されている期間(例:2022年6~9月)などは、自動車販売は好調でした。しかし、今年6月以降この水準を急速に下回る販売台数となっています。不動産市場に続き、自動車市場もこれから大きな変動が起きる可能性がありそうです。弊社は、今後も中国自動車市場に関する、客観的な分析を定期的に発信する予定です。

 

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GMDコーポレートファイナンス(現KPMGFAS)にてM&Aアドバイザリー業務に従事。バイサイド、セルサイド双方の案件エグセキューションを経験。 その後、JAFCO 事業投資本部にてバイアウト(企業買収)投資業務に従事。 また、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)にて、通信/ITサービス企業の事業ポートフォリオ戦略立案等、情報通信/ITサービス領域におけるコーポレートファイナンス領域のプロジェクトをリード。
2013年 IGNiTE CAPITAL PARNERS株式会社設立。代表取締役就任。
日本証券アナリスト協会検定会員
日本ファイナンス学会会員

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