
欧州は、中国と並び電気自動車(BEV=バッテリーEV)の導入に非常に積極的な地域です。しかしその動向には常に懐疑的な見方が付きまといます。例えば、特に日本においては、欧州の電動化の背景は本質的には環境問題ではなく、OEM(ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン等)勢がプラグインハイブリッドで日系OEM(特にトヨタ)に勝てないために、ゲームチェンジを仕掛けているため、というような見方があります。このように考える人々は、欧州が歪んだ動機に基づいて無理やり電動化を推し進めれば、どこかで必ず破綻が生じると予想します。
実際、こうした破綻を示唆するような動きは、欧州自体からもいくつか示されてきています。例えば、フォルクスワーゲンは2022年9月に、全社の電動化を強力に推し進めてきたヘルベルト・ディース最高経営責任者を解任しました。また、2023年3月に開催されたEUエネルギー相会議では、エンジン車の新車販売を2035年に完全に禁止するとしていた方針を転換し、合成燃料(e-fuel)の使用を条件に販売継続することを認めました。
合成燃料は、水素と二酸化炭素から合成されますが、この水素を生成するためには大量のエネルギーを要します。e-fuelは、この水素を生成する際、100%再生可能エネルギーを用いた電気分解により生成される水素のみを利用して作られる合成燃料のことです。大量の再生可能エネルギー(風力や太陽光)で生成された電力を、電気自動車のバッテリーに直接充電するのではなく、水素生成のための電気分解に利用し、合成燃料を生成して内燃エンジンを回すというこのロジック。この場合のエネルギー効率は、一部の試算ではバッテリーに直接再生可能エネルギーを充電する場合より、8割も悪化するとされています。このような一見「馬鹿げた」技術を容認してまで、2035年の完全電動化の旗を降ろした欧州のEV戦略。では欧州の電気自動車市場拡大は、今後失速するのでしょうか。
データを見てみましょう。冒頭のグラフは、欧州における新車販売に占める電気自動車(BEVのみ)の比率の月次推移を表しています。少なくとも2021年以降の欧州市場においては、次のようなトレンドが観察されます。
- 2021年から2023年までの間に、新車総販売数に占めるEV販売台数の割合は一貫して増加。
- この割合は、2021年初めには約5%でしたが、2023年半ばには約15%まで増加。
- 2022年12月と2023年1月において、販売台数が乱高下。
このうち、2022年末から2023年初めにかけての乱高下は、いわゆるクリスマス特需(年末特需)とその反動と推察されます。(その前の年末にも類似する動きがみられるため、おそらく間違いないでしょう。こうしたイレギュラーな動きを捨象して全体のトレンドを見ても、欧州におけるEV化の比率はわずか2年半で5%から15%まで拡大しています。※参考日本は直近5%以下、中国は約20%)。
こうしたデータを見る限りでは、欧州EV化の変調の兆しを見せているとまでは言えないでしょう。一方で、10%まで急激に伸びた販売シェアが、2022年以降は横ばい傾向で成長鈍化しているのも事実です。おそらく2023年末のクリスマス商戦でどのような販売動向となるかが、2024年以降の欧州EV化を予測するうえでの一つのポイントになるでしょう。イグナイトは、今後も世界の自動車市場電動化のリアルな動向を発信してまいります。
- By 西澤龍
- 7月 25, 2023
- 自動車産業の変革を読む