世紀のボクシングマッチがいよいよ近づいてきました。日本ボクシング史上最高傑作と言われる井上直哉選手。彼が階級を上げて挑むスーパーバンタム級世界タイトルマッチが23年7月25日に開催されます。対する相手はスーパーバンタム級2団体王者、スティーブン・フルトン選手。両者ともに無敗。そして井上選手は実に数年ぶりに、青コーナー(挑戦者サイド)からの出陣です。
ボクシングの枠を超え、世界中のスポーツファンが注目するこの世紀の一戦について、すでに両陣営の間では激しい前哨戦が始まっています。22日の公式会見で、フルトン陣営が井上のバンテージの巻き方について、異論を提示しました。ことの詳細はボクシング専門家の解説に譲りますが、バンテージの巻き方は、テーピングの施し方とセットで、世界各国のボクシング団体ごとに異なるルールが存在します。今回フルトン陣営の異論は、井上選手が、米国のルールでは禁止されているバンテージの巻き方(一般的にはパンチ力が増すとされる)をしているという指摘です。しかし、今回の世界戦は日本開催であり、日本におけるルールが適用されることはフルトン陣営も百も承知のはず。これは結局のところ、陽動作戦といえるでしょう。井上選手は、これまで世界戦を海外で4試合戦っています(米国とイギリス)。その際は当然現地のルールに従っており、結局のところ井上選手が海外でもKO勝ちを収めていることは世界中のファンが知るところです。
一方で、井上選手の試合結果をデータ分析してみたとき、もしかして海外において、日本より苦戦したり、試合が長引いたりした事実はあるのでしょうか。もしそうであれば、バンテージの巻き方は試合結果に多少とも影響している可能性を否定できなくなります。そこで、昨今非常に注目度が集まっているChatGPTに、井上選手の過去の世界戦のデータ(ごく基本的なもの)を読み込ませ、いくつかの角度から分析してみました。上記のグラフは、井上選手のこれまでの世界戦の試合時間(KOあるいは判定で試合が終了するまでの時間)を秒単位で集計したものです。最も長かったのは判定の2試合。最も短かったのはパヤノ戦で、実に70秒で決着しました。衝撃的なKO劇は今もボクシングファンの脳裏に焼き付いています。
では本題です。海外での試合と日本での試合の結果になにか有意な差はあるでしょうか。もし、海外でバンテージの巻き方が変わることで井上選手のパンチ力が左右されるなら、海外での試合は長引いたり判定になったりする傾向があるかも知れません。しかし、試合が終了(海外ではすべてKO/TKO)までの時間は、国内の平均が1,018秒であるのに対し、海外の試合は平均781秒で決着がついています。海外のほうが短時間でKO決着しているのです。もちろん、海外での試合数が4試合であり、サンプルとして限られるため、あくまで一つの参考にすぎません。しかし少なくとも過去において「バンテージのルールが日本と違うから海外で苦戦した」ということが推論できるようなデータの傾向は示されません。
では、今回の井上選手の階級アップでの挑戦についてよく指摘される「階級の壁」はどうでしょうか。これについては、井上選手はこれまで階級の壁を物ともいわず快進撃を続けてきたことはすべてのファンが知るところです。しかしデータを見ると、井上選手の強さがさらに客観的に理解できます。各階級別の試合ごとの平均時間をChatGPTに分析させたところ、階級が上がるほど試合時間が短くなっています。ライトフライ(LF)からスーパーフライ(SF)へ、さらにバンタム(BT)へ。階級を上げるごとに井上選手が試合を終わらせる平均時間は、1,471秒(LF)、939秒(SF)、881秒(BT)と、どんどん短くなっているのです。少なくともデータから明確に言える過去の傾向としては、井上選手は、「階級の壁」ではなく「減量苦」の影響の方が大きかったといえそうです。今回、スーパーバンタム級への挑戦が、初めての階級の壁となるのか、それともトレーニングにより進化し続ける強靭な肉体が減量苦から解放され、井上選手の更なる秘められたパワーが爆発するのか。25日の試合を世界が注目しています。
最後に、ChatGPTに読み込ませたデータから、試合の予測を依頼したところ「データが限定的で予測は不可能」との回答でした。確かに、今回使用したデータは井上選手の世界戦対戦成績のみであり、相手のデータもなければパンチの総数やその種類といったデータも入っていません。しかし、量と質の両面においてより豊富なデータセットを用いることができれば、もしかしたらもっと緻密な分析に基づく予想が提供される可能性は十分にあり得ると感じます。そんな将来に期待しながら、世紀の一戦を見守りたいと思います。
- By 西澤龍
- 7月 23, 2023
- ChatGPTが変える未来