今、日本の経済政策史上最も野心的で、かつ実験的な挑戦が実行に移されようとしています。アベノミクスです。アベノミクスは、2013年以降、日本の経済環境に大きな影響を与えることは確実でしょう。このコラムでは、その行く末について考察すると共に、具体的な帰結をあえて予想してみたいと思います。最初に結論を書きます。アベノミクスにより、2013年末のドル円相場は110円まで下落し、2014年以降の経済はスタグフレーション(景気後退下の物価上昇)へと向かう可能性があると予想します。
この予測の根拠は以下のとおりです。まず、日本の金融政策の修正において最も重要な、米国の同意(円高の修正を容認)が得られていること。次に、すでに顕在化している欧州諸国の円安政策批判(いわゆる不況の輸出批判)に対しては、日本の外交力で十分対抗できること。そして、消費者物価指数の2%上昇が需要の拡大ではなく、輸入コストの増大によるものである可能性が高いことです。これらの結果として、日本は2014年以降スタグフレーションに陥る可能性があります。
アベノミクスは、国の命運を賭けた大胆な挑戦であり、我々はその試みを評価します。しかし、政策としてのアベノミクスがより良いものになるためには、いくつかの条件を満たす必要があると思われます。今、米国の経済は回復基調にあり、長期金利も上昇しています。その結果、日米金利差が生じ、円安傾向を支える可能性があります。つまり、アベノミクスの結果、為替がかなりの円安に振れることはほぼ確実です。
このような円高修正は本来、しばしば他国の批判の対象となります。特に、ドイツなどの自動車産業で競争が激しい国々からは、すでにかなりの反対が出ています。しかし、日本の外交力は、対米国以外においては一定程度機能しており、これらの外圧がアベノミクスを阻害することはないと考えられます。
ただし、アベノミクスが本当に目論見通り、消費者物価指数(CPI)の上昇をもたらすかは疑問です。通常、金融緩和がCPIの上昇を引き起こすためには、いくつかの経路を通る必要があります。具体的には、円安による輸出型企業の業績拡大が、賃金として分配されることによる消費の活性化。また、市場に流動性が供給されることにより、株式・不動産の価格上昇が起き、これが消費を誘発する「資産効果」です。しかし、我々の分析では、この金融緩和がこれらいずれの効果も、もたらさない可能性があると考えます。本来、為替が円安に振れれば、輸出企業の業績改善は確実に進むでしょう。しかし、現在の日本では、これがすぐに雇用の増大や賃金の上昇につながる可能性は低く、資産効果も実現しない可能性が高いと考えれます。その結果なにが起きるか。名目物価の上昇率が名目賃金の上昇率を上回る「コストプッシュ型のインフレ」が起きる可能性が高い。
このようなコストプッシュインフレが出現した場合、家計の実質所得は減少し、日本は深刻なスタグフレーションに陥る可能性があります。これを防ぐには、利益の一定率を賃金や新規雇用に優先的に当てる制度や、利益分配方針に対する税制の優遇が必要となるでしょう。しかし、そのようなメカニズムは、残念ながら現在の日本経済にはビルトインされていません。また、アベノミクスが言及する「成長戦略」は確かに重要ですが、それは短期間で実現可能なものではありません。
とどのつまり、円安による企業業績の回復が、利益の分配やそれに伴う賃金の上昇循環を生み、名目賃金率の上昇がインフレ率を上回ってこない限り、日本はどこかでスタグフレーションに陥るでしょう。当然ながら、我々はこのような不幸な事態が生じないことを願っています。日本企業と日本の被雇用者の行動原則が少しずつ変化し、より良い経済環境が生まれることを期待しています。