2025年1月24日。今日の日銀政策決定会合で、日銀は利上げを決定しました。しかし、現時点では為替市場でのドル円相場の反応は限定的です。金融政策の変更により、日本の政策金利は1995年以来30年ぶりの水準に到達しますが、長期的な視点では引き続きドル高傾向が続く可能性が高いと予測されます。その根拠として、今回は米国の政策金利や2年債利回りと、10年債利回りの逆イールド発生とその解消の動きについて分析します。
■逆イールドの発生と収束
冒頭のグラフは、日米における政策金利と10年国債利回りの水準、そして米国の2年国債と10年国債の利回りをそれぞれグラフ化したものです。中央のグラフ、及び右のグラフを見ると、直近半年の金利市場では、奇妙なことが起こっていました。2024年後半からFRBは利下げ局面に入り、比較的短期間で4回もの利下げを行ったにも関わらず、10年国債の利回りが上昇したことです。これは、トランプ政権誕生予測に伴うインフレ予測が要因のひとつといわれています。しかし、もう少し長期で見ると、さらに特殊な状況が浮かび上がります。それは、米国における短期政策金利や2年国債利回りと10年国債利回りの逆転現象、いわゆる逆イールドの発生です。
■逆イールドは2022年末から発生し、トランプ氏当選後から年明けに解消された。
通常、長期間の資金調達には高いリスクが伴うため、長期金利は短期金利を上回ることが一般的です。しかし、米国では政策金利や2年国債と10年国債利回りの比較において、この逆転状態が2022年から2023年初頭まで1年以上続きました。
この逆イールドが発生した背景には、FRBが2022年前半からインフレ抑制のために実施した急速な利上げが考えられます。FRBは、利上げ開始後わずか18か月で政策金利を5%以上まで引き上げました。米国のインフレ率が2桁に届きそうな勢いで伸びていたためです。しかし、急激な利上げにも関わらず、米国経済は堅調で、インフレ率は収まりませんでした。この結果、2023年初頭からは政策金利の上昇に10年債利回りが追随できなくなり、逆イールドが長期化しました。
■逆イールドの発生と解消のメカニズムは解明できないが、市中金利が上がらなければ政策効果は限定的であることは当然。
この現象の背景には、特殊な米国債の保有構造(日中をはじめとする海外勢の大規模保有)が影響している可能性があります。また、市場が政策金利を高すぎると判断し、長期債に資金が流入したことも一因でしょう。逆イールドが発生した原因と背景を突き止めることは困難ですが、政策の帰結として明らかなのは、政策金利を上げても市中金利が追随しなければ、インフレにブレーキがかからないのは当然だったということです。
■米国の金利動向は、異常な動きではなく「正常化」に向かっている可能性
ところが、2024年中旬以降、逆イールドが解消し始めました。インフレ鈍化と景気後退を懸念したFRBが政策金利を急速に引き下げる中で、10年債利回りが上昇したためです。トランプ氏が当選し、地政学的な不確実性が縮小したことも影響しているかも知れません。この結果、2024年年末から2025年初頭にかけて、米国におけるこの逆イールドは解消し、10年債利回りが政策金利を上回る順イールド状態になっています。逆イールドより順イールドの方が正常な状態という理論が正しいならば、現在の米国10年債利回りの水準は「おかしな水準」ではなく「政策と整合性がある水準」になりつつあるといえます。
さらに、米国の順イールドの大きさは、日本(左のグラフが日本)に比べると依然として小さく、本来ならばもう少しスプレッドが開いていてもおかしくありません。このことは、米国10年債利回りがさらに上昇する余地があることを示唆している可能性もあります。
■米国の金利は現在の水準で高止まりし、日本の金利も急速には上がらない。
一方、日本の状況を見てみると、日銀が本日利上げを決めたものの、既に市場では利上げがかなり織り込まれていたとみられます。そのため、今後日本の10年債利回りが急激に上昇する可能性は低いでしょう。これにより、日米金利差(ここでは10年債利回りの差)が急速に縮小する可能性も低く、結果としてドル高傾向が続くと予測されます。
米国の政策に目を向けると、トランプ氏が製造業の復活を目指す意向を示しているものの、それは10年以上の長期スパンを要する産業構造の大改革です。むしろ、原油の採掘を拡大する方がまだ短いスパンでの効果を期待できるでしょう。トランプ氏、あるいは経済のかじ取りを担うベッセント氏が、ドル高をより強く牽制し、より具体的な行動に出るのは少なくとも原油増産によるインフレ抑制効果を見極めてからになるでしょう。それは1年~3年以上先と考えられます。
■逆イールドとリセッションの関係(ホラーストーリー)
ちなみに、過去の米国において逆イールド(2年国債利回りと10年国債利回りの逆転等)が生じた場合、経済がリセッションに陥いったケースがあったことが経験的に知られています。さらに厳密には、逆イールドが発生し、かつそれが解消された後にリセッションが観測されています。具体的には、1980年代初頭のスタグフレーション不況、2000年代初頭のITバブル崩壊不況、2008年のリーマンショック不況などです。いずれも先に逆イールドが発生し、かつそれが解消した後にリセッションが起きています。
2024年後半から2025年初頭に、米国市場の逆イールドが解消したことが、リセッションの予兆かどうかは分かりません。但し過去のケースではそのような関係性が見られたことも、頭の隅に入れておく価値はあります。万が一米国がリセッションに陥れば、金利の大幅な低下を招き、その時には急速な円高が起きる可能性があります。しかし、それが発生するかどうかは、だれにもわかりません。ブラックスワンは本当にいるかも知れませんが、いると信じ込んでしまうこともまた危険といえます。